曖昧

芸術系の二流建築学生。主に好きなバンド、歌手の楽曲を自分用にアウトプットする場として。建築や本等の備忘録も。

相互認識域と思春期のキズ。 Base Ball Bear 「十七歳」 レビュー

Base Ball Bear レビュー② 「十七歳」

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2ndアルバム「十七歳」(2007/12/05)のレビュー。

 

路線としては前作「C」の青春、思春期的な路線を強化しながらより音楽性はポップになっており、ベボベのパブリックイメージはほぼこのアルバムのイメージと同じだと思う(セールス的にはこのアルバムが1番ではないのが面白い)。

代表曲「17歳」「ドラマチック」が収録されており入門アルバムとしてもとっつきやすい。

小出はこの時期に半年ほど音楽プロデューサーの玉井健二にボイトレや楽曲制作などのノウハウをガッツリ受けており、それがこのアルバム以降にも大きく影響している。

 

1.17才 ☆☆☆★

多分ベボベの中で一番有名な曲。

Cから考えるとガラッとポップになっており、1曲目からかなり新鮮な驚きがある。あまりにもメジャー過ぎてあまり聴いていなかったのだけど改めて聴くと歌詞が非常に良い。

掴んだ腕残るBCG

覚えてしまったABC

歌詞にBCG(ハンコ注射)を使う事により生まれる違和感と「身体は殆ど大人だけどまだ注射跡はある」微妙な時期性の表現も素晴らしいし

ABC、覚えてしまった知識は二度と戻らない、無垢(子供)から少しずつ離れていくという対比も凄く上手いなと唸る。なかでも

傷ついて痛いかい?

気付いてほしいのかい?

が特に凄い歌詞だなあと思っていて、思春期って主に「認識されない自分だけ(だと思っている)のキズを抱えること」だと感じることが多くて、だからこそ思春期の友情は「傷の共有、相互認識」によって成り立つ側面が大きくて、それを凄くピンポイントにグサッと刺す歌詞だし「気付いてあげるよ」とか「誰か気付いてくれるよ」じゃなくて「気付いてほしいのかい?」ってちょっと角度を変えて歌うのが巧みだよな。ある意味でそういう思春期の甘さを突き放してしまう感じというか。

Base Ball Bear - 17才 - YouTube

 

2.ドラマチック ☆☆☆☆

アニメ「おおきくふりかぶって」の主題歌。

正月返上で制作したらしい。

「ドラマチックチック」みたいな感じで擬音的なフレーズを繰り返す事によってキャッチーにする手法を用いている。

譲れないもの見つけても 気付いたら目を逸らしてた

という歌詞がめちゃめちゃ刺さる。これだ、と思うものがあってそれを最後までやり切れたことって今まであっただろうか、と自分自身を見透かされたような気になるフレーズ。だけど

譲れないものがある

ともう一度歌うことによって、その悩みに対する解決を1曲の中で出しているのがベボベ的だなと感じるし、すごく好ましい。

あと、MVがビックリするくらいダサい。

Base Ball Bear - ドラマチック - YouTube

 

3.抱きしめたい ☆☆☆

かなりシンプルな王道ド直球ラブソング。

メロディが良くて、その裏のリードギターもアルバムの中だとトップクラスにすき。湯浅(gu)のリードギターは意識し始めるとすごく効果的に曲に作用してることが分かって面白い。

Base Ball Bear - 抱きしめたい - YouTube

 

4.ヘヴンズドアー・ガールズ ☆☆★

ヘヴンズ・ドアー(天国への扉)を通って屋上から飛び降り自殺をする女の子たちの歌。

ヘヴンズドアーはまず間違いなくジョジョ岸辺露伴から。

思春期の、何かのきっかけで飛び降りてしまうような精神的危うさを

ヘヴンズドアーはいつでも君のために少し開いてる

と表現するの、怖いな。的確なんだけど「君のために」ってそれを表現出来てしまう感覚が怖い。

 

5.愛してる ☆☆☆★

小出と関根(Ba.Cho)のサビの掛け合いが気持ち良い。すごく「よくある」タイトルなんだけど、これは「よくある」タイトルへのアンチテーゼ的表現だと思っている。

歌詞も「愛してる」と言って喜ばれないことに動揺する男の子と、安直に「愛してる」と言われる度に愛が逃げていくような感覚になる女の子の感情のすれ違いを描いていて、後半になるにつれて

愛してる、君を 間違いは無いはず

君と 歩んでいきたいはず

愛してる…はず…たぶん

とどんどん自分の感情に自信が持てなくなっていく構成なのが面白い。言葉を簡単に使ってしまうことに対する批判的な視点を少し感じる。

Base Ball Bear - 愛してる - YouTube

 

6.Seventeen Romance ☆☆☆

別れた元カノと電車でばったり同じ車両になってしまって気まずいな、という曲なんだけど状況描写と心理描写が上手い。

君は英単語帳見ていた

君はこれから何個の単語覚えるんだろうか

ってスゲー歌詞書くな。これだけですごくいろんな情景が見えるというか、元カレと目を合わしたくない手持ち無沙汰な女の子が英単語帳開くの、スゲーリアルだな。

男は未練があって、もう一度声をかけたらロマンスが始まるのかもしれないのに。

と後ろ髪をひかれながら悔やむだけの歌。

何も起きないことを書くのが上手い。

珍しく一人称に「俺」を用いており、歌詞表現として私小説的な意味合いが強いのではないかと踏んでいる。

 

7.Futatsu No Sekai ☆☆☆☆★

ギターがめちゃめちゃかっこいい。サビへの盛り上げ方がすごくて、「キメ」でバチッと仕留める感じがする。イントロはアコギだと思うんだけど、ロック的手法でアコギをかき鳴らすのカッコいいなあ。

歌詞の最後で明かされるけど「sekai」は世界と正解のダブルミーニング。不倫の歌なので

「2つの世界(関係性)とそれぞれの関係性での正解を夢想する愚かな男」という意味。

オチが

普通の2人だったら 惹かれ合うことはないかもしれない

なので「バカヤロウ」と言いたくなる。

小出の実体験ではなく友達の友達の話らしい。

 

8.真夏の条件 ☆☆☆★

「ダッダダダッダダダッ」みたいな、西部劇とかでありそうな馬の足音みたいなベースのリフが特徴的。自分はこれをよく「荒野感」と例えている。ガスタンクの「ジェロニモ」とか。

韻の踏み方やサビの盛り上がり、それこそギター&ベースの荒野感とかメロディも含めて1番ライブを意識してる印象を受ける。実際盛り上がる。

真夏の条件 それはひとつだけ 君がいるということ

という結論が真っ直ぐで気持ち良い。

Base Ball Bear - 真夏の条件 - YouTube

 

9.青い春・虚無 ☆☆☆☆

カッティングが心地よい。

個人的な感覚ではサビが無くて、Aメロ→Bメロ→ギターソロ のギターソロがサビの役割を担ってるわりと特殊な構成の曲。

それでもしっかりとギターソロでキメるのでめちゃめちゃちゃんとロックの楽曲として成り立っている。

同期を全く使わずにギターの歪みだけでこのサウンドを成立させてるの、すごく変態的だと思う。

 

10.WINK SNIPER ☆☆★

関根史織(Ba.Cho)がボーカルの曲。

恋に焦がれ 恋に泣く
まな板の鯉にもなる
本当の恋を求めてるの
誰かと濃い恋をする
神様来い、話がある
素敵な才能をください

の部分の言葉遊びが聴いていてかなり気持ち良い。

関根嬢がボーカルの曲だけど、ハモりの小出の低めの声がカッコいいのでオススメ。

WINK SNIPER at NIPPON BUDOKAN from 1st LIVE DVD - YouTube

 

11.協奏曲 ☆☆

Base Ball Bearの曲の中で1番真っ直ぐなラブソングな気がする。十七歳のアルバム全体でいえることだけどこの曲の主人公達はもう大人なんだよな。大人になってしまったけどまだ十七歳のあの頃を引きずっているんだろう。

ちなみに、この曲は小出が友人の結婚で作った曲らしい。

実質アルバムの最後の曲という感じ。

 

12.気付いてほしい ☆☆☆

ベボベ版「Help!」(The Beatles)という感じ。

17才の「気付いてほしいのかい?」からの流れ。

協奏曲で本編が終わって、エンディング後のショートムービーのような印象。これは後の「二十九歳」でもあるアルバム構成(そちらはより顕著)。

もう少し書くことがあったんだけど「ベボベ版Help!」という表現で全て言い切ってしまった。以下Help!の歌詞引用。

(Help!) I need somebody

(Help!) Not just anybody

(Help!) You know I need someone

(Help!)

The Beatles - Help! - YouTube

 

総括 アルバム ☆☆☆☆

自分が少し前に十七歳の曲をやるよ!っていうライブに行ってるのもあるけど改めてすごく良いアルバムだと感じる。

「C」までの抽象性の高い歌詞表現からガラッと具体的かつ対象を絞った表現に変化しておりこの時期での大きな変化だと思う。

音楽性自体もポップロック的な方向に寄りつつギターロックも捨てない絶妙なバランス感覚だな。

全体の曲順や纏まりとしても、最初と最後の「十七歳」と「気付いてほしい」で挟むことによってアルバム全体の青春色、コンセプトがすっきり表現されている。これだけシングル曲、タイアップが多くてきちんとアルバムとして纏まっているのはこの時期の小出の歌詞世界観が近いからなのかな。