特撮 「agitator」 レビュー
大槻ケンヂ率いる特撮の徳間からリリースした初期3作のラスト、3rdアルバム「agitator」(2001/09/27)のレビュー。これもまた前作「ヌイグルマー」から1年が経っていない状態でのリリースで、この時期のオーケンの調子の良さが伺える。実際アルバムとしても非常に密度が高く脂がのっている。
1.ヨギナクサレ☆☆☆☆
「ヨギナクサレせざるを得ない!」って言葉はアルバム1曲目にしてめちゃめちゃ心掴まれるなあ。「それでも、生きていかざるを得ない」のこの時のオーケンの言い方なんだろうな。
ふざけるんじゃねよ動物じゃねえんだ、のオーケンに妙に強烈な真剣みを感じる。
語りの部分で、アジテーションする側のオーケンがオーディエンスにアジテーションされているの、めちゃめちゃ皮肉効いてるな〜〜と思う。相互にアジテーションされて主張はでかくなって行くのかもしれない。
「何を」ヨギナクサレせざるを得ないのか。
2.超越人間オーケボーマン☆☆☆☆☆
このアルバムで一番好きな曲。
この曲も含め、前の曲もそうだが「獣」がagitatorを通してのテーマなのかもしれない。ヨギナクサレは獣性の否定だが、この曲は獣にならざるを得ないということを歌う。
意味はよくわからないんだけどブラフマンとアートマンは実際にインドの宇宙原理?の中にあるんだよね。そんな絶対的なものの中間に自分(オーケボーマン)を置くなよ。
恋と愛の距離を深度で表して「愛を知るまで恋に落ち続ける」と形容するのが面白いなと感じた。どうすればオーケボーマン(オーケン)になれるの!、ファンが1度は思う事だろう。
宇宙の根本原理みたいなものを描きたかったのかな。
3.人狼天使☆☆☆
念仏のようなオーケンお得意のパートから始まる。この曲でも狼(獣)のモチーフ。
「メスカリン」は幻覚剤の一種らしい。欺くのは自身か。
牙だけはギラギラと太陽に背く、メスカリンによって自身を欺いて信仰(ロザリオ)も夢も溶けてしまってもその牙だけは残る、というような意味か。NARASAKIパートが良い。
4.悪魔巣取金愚☆☆☆
カバー。よくよく聞いたら歌詞怖いよな。
悪魔巣取金愚なのか悪魔ストッキングなのか、と思ったらどっちもだった。
非常に風刺的なものを強く感じる。
何故か黒澤監督のオムニバス映画「夢」のひとつを思い出す。
5.人間以外の俺になれ☆☆☆☆☆
イントロ〜のおだやかな空気から一変しての逆ギレ。逆ギレソングとしてネタ含め完璧な歌だなと思う。愛して恋してエンヤトットエンヤトット。
輪廻転生の解釈を少し捻じ曲げたような歌詞だと思うが、ハワイで幸福な人々をみた男が急に狂うのが気になるんだよな。
構成が若干「人間蒸発」に近い。多分俺こういうのが好きなんだろうな。
ここでも獣のモチーフが。後の曲で出るうさぎのモチーフも出てくる。B級アイドルはゴスロリちゃんに通ずるか。
6.Night Light ☆☆☆
エディのインストだーーー!!!!前半と後半をつなぐ良い橋になってるなぁ
7.ゴスロリちゃん綱渡りから落下す☆☆☆☆☆
最高。眼帯だから遠近感覚が弱くなり綱から落ちた説がある。アルバムの折り返し地点であり、明確に「チャンネルが変わったな」とインスト含め感じさせるパワーがある。
うさぎのモチーフ。やはりこのアルバムはうさぎと狼が肝なのかな。
「あっ」だけで綱から落ちるの表現するの凄い。
彼女は両親に愛されていなかったから父親が母親を殺すようにしむけたのだろう。
「光遮れよ眼帯白く埋めつくすように転がり続けろ包帯連れて行け夢へ」という歌詞が好き。ゴスロリちゃんは美しくないのも好き。
文豪ボースカ的な終幕での世界観の広がり。
人殺しと被害者の戦争という全く関係の無いスケールの大きな話を持ってきてそれを「そんなことよか」と一蹴してゴスロリちゃんにとっての最も大切なことを非常に強くメッセージとして与えている。
8.日本の米2001(作曲20周年記念)☆☆☆
ライブアレンジ的なわかりやすさ。茶番劇がないからノリやすいけどあの茶番劇好きなので元の方が好きだな。「君は愛を知っているか?」と馬鹿ソングで聴けるのが大槻ケンヂのバランス感覚なのだなと感嘆する。
ちなみに俺は1度食べ過ぎて気持ち悪くなってから納豆が食べられなくなってしまった。
エディのピアノがかなり良い。ヤンガリーって映画の主題歌らしい。B級感が特撮に合うなぁ。人間以外の俺になれ、と何となく親和性を感じるオチ。
どこからスカイヤンガリーなのかが分からない。1.2.という割に一貫性がある。
ここで「人間以外の俺になれ」と同じセリフ。
10.うさぎ☆☆☆☆★(4.5)
名曲。恐らく赤い目の人だけを殺す殺人鬼の女の子の歌なんだけど、よく歌詞を読むとちょっと哀しい歌だな。
寂しくないと死んでしまう、ということでもしかしたら「赤い目」という共通項を持つ人(仲間になりうる)を探して殺しているのかもしれない。
それはそれとしてメロディとオーケンの歌が凄く良いんだよな。めちゃめちゃ好きな歌。
11.揉み毬☆☆☆★(3.5)
いい曲だしかなり好きなんだけど、agitatorか〜??とちょっと思ってしまう。13人の刺客枠。勿体ない。でも名バラードだと思う。
なんで揉み鞠というめちゃめちゃマイナーな所に目をつけようとしたのだろう。マッサージチェア全体ではなくあくまで揉み鞠のパーツのみなのが気になる。
12.殺神(album mix)☆☆☆
ザ・特撮の曲〜って感じ。多分特撮の全曲を読み込ませてAIに作らせたら殺神が出来る。
だからこそ好きな曲だし、だからこそ特筆すべきものが個人的にあまりない曲。
信仰について歌っているようだし、神殺しの歌なのかな?と思うけどちょっと読み解けない。
総括☆☆☆☆☆
非常に完成度が高い。個人的な特撮での評価の基準がこのアルバムになってしまうのでほかのアルバムに対する評価が厳しくなったりする。
比較的歌謡的だったヌイグルマーよりかなりパンク寄りになっていて、この後の夏盤やオムライザーに繋がる要素が見受けられる。
やはりここまでレビューしてきた初期三作は完成度が高いな。
コンセプトアルバムかどうかは別として、「獣」のモチーフが非常に多くこれは意識しているだろうと思う。
「人間以外の俺になれ」がわかりやすいが、かなり輪廻転生とか、人からの脱皮を求めるような歌詞が多い。
このアルバムは、全体を通して踏みにじられてもその眼の輝きを、尖った牙を捨てるな、みたいなオーケンからのアジテーションなのかもしれない。