曖昧

芸術系の二流建築学生。主に好きなバンド、歌手の楽曲を自分用にアウトプットする場として。建築や本等の備忘録も。

ポップでしか表せない愛と哀のカタチ。 Base Ball Bear 「(WHAT IS THE)LOVE&POP?」レビュー

Base Ball Bearレビュー③「(WHAT IS THE)LOVE&POP?」

 

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3rdアルバム「(WHAT IS THE)LOVE&POP?」(2009/09/02)のレビュー。

 

前作「十七歳」のポップ路線を強化しつつ所謂ギターロック的でハードな音楽性に寄ったアルバム。と言っても「C」からずっとギターロックという面は大きいので、やはりポップ性の拡張が特色と言える。

タイトルは言わずもがな、小出が影響を公言しているイギリスのバンドoasisの2nd「(WHAT'S THE STORY)MORNING GLORY?」のオマージュで、このアルバムの特徴を挙げるなら「小出のソングライティングの圧倒的な暗さと、そこにどうしても同居するポップさ」であり、

自分にとっての初めてのBase Ball Bearのアルバムなので個人的にも思い入れが強い。

個人的な括りとして「思春期引き摺り三部作」の3作目。

 

1.stairway generation ☆☆☆☆

銀魂のアニメ主題歌。

タイアップなのに歌詞がめちゃめちゃ重いのだけど、普通に聴いてるだけだとそのメロディの強さ(ポップさとも言う)に引っ張られてめちゃめちゃ希望の歌に聞こえる。

孤独のいう名の風邪 19で終わりじゃないのかい?

という歌詞が、青春と距離が離れていきながらもずっと引きずっている暗さを凄く端的に表している。

1番のAメロが""で歌詞を括ることによって「小出への(あるいは自分からの)質問、助言」のようになっていて、2番のAメロでそれに対するアンサーとは言えない心の違和感の吐露を書いている。

「主張の強さ」というハードさを、それ以上に強いメロディ(ポップさ)でかき消しながらも歌詞にきちんと向き合った時にきちんと届くように曲を作っているな、と感じる。

タイトルから、何となくインディーズ時代の楽曲「夕方ジェネレーション」を連想させる。夕方〜でも言えることだけど、この時の「ジェネレーション」という言葉、同世代とかという意味より「今の時代を生きる僕ら」位の広さを感じる。

Base Ball Bear - Stairway Generation - YouTube

 

2.sosos ☆☆☆

めちゃめちゃリライト。

びっくりするくらいリライトなんだけど、(リライト故に)カッコイイ曲。

メロディ以外のところで言うと、歌詞の情景が凄く映画的で面白い。stairway~もそうだけど、歌詞を括弧で括る表現があって、それがこのアルバムの特徴かもしれない。それは不特定多数の他人の声でもあるだろうし、自分の内側からの声でもあるだろうけど。

歌詞見るに自殺の曲なんだけど、どうやら主人公は飛び降りる女の子ではなく「僕」。

女の子が死んでも希望を捨てる事が出来ない僕のSOSの歌。

 

3.changes(Album ver.) ☆☆★

図書館戦争のアニメ主題歌。

当時は小出は「こんな無責任な希望歌えねえ」とあまり好きではなかったらしいけど、スゲーいい歌詞だなと思う箇所が多い。

何かが変わる気がした

何も変わらぬ朝に

いつもより少し良い目覚めだった

って歌い出しが特に好きで、そういう日ってごくたまにあるし、失望でもあるけど間違いなく希望でもある感じが凄く上手いな、というか共感してしまう歌詞。

曲が終わったあとにアルバム版にだけ

夕方世代を 行き過ぎる頃

ようやく胸をなで下ろしました

暗黒時代に 背を翻し

僕は助かった つもりでした

という歌が入っており、これは次の曲のAメロをなぞって路上での弾き語りの形で収録されている。

意味としては「孤独という名の風邪19で終わりじゃないのかい?」と繋がっているし、「変わった」と希望を歌うchangesの最後にこれを差し込むの、本当にこの曲が許せなかったんだな、という気持ちが強い。

Base Ball Bear - changes - YouTube

 

4.神々LOOKS YOU ☆☆☆☆

鴨川ホルモー主題歌。タイアップ多いな。

この曲も明るいので小出は当時はあまり好きではなかったらしい。でも本当に良い曲。この曲に救われた人は(小出の本意の歌詞ではないとしても)いっぱいいると思うし、自分にとっての「曲で心を奮い立たせる」経験の初めての曲な気がする。

歌詞も勿論だけどとにかくメロディ、声、全てが100点。MVも100点。

Base Ball Bear - 神々LOOKS YOU - YouTube

 

5.Love letter From Heart Beat ☆☆☆★

紙飛行機 B5 折りなして 

という歌詞が好き。B5って紙のサイズ歌詞に使うの、凄くツボでこういうちょっと捻ったテクニカルな歌詞に弱い。ラブソングなんだけど

カナダより 彼方より あなたへ届けたい

紙飛行機 成田より あなたへ飛ばしたい

という歌詞から女の子がカナダに行ってしまったけど手紙を書いて紙飛行機にして飛ばす(届かない)男の子の歌なんだろう。

 

6.ホワイトワイライト ☆☆☆☆

マチュア時代に制作された楽曲。

「わざわざこのアルバムにめちゃめちゃ前の楽曲を収録した」意味について考えてしまう。

レビュー執筆の少し前に発売されたサカナクションの最新アルバム「834.194」では、アルバムの最後に2パターンの「セプテンバー」という札幌時代の楽曲を収録することによって、東京と札幌の両方の自分を対象化しながら描いている。

そこから考えてもやはり、わざわざこの「最も暗いアルバム」にホワイトワイライトを入れた事が無意味には思えない。

個人的な考えでは、ホワイトワイライトが淡い希望を歌う内容であることも踏まえて「過去の自分(孤独という名の風邪を患っている)から今の自分へのエール」としての役割を担っているんじゃないかと思う。

「changes」や「神々LOOKS YOU」を今アルバムに入れることはある意味で嘘をつくことになるけど、本当に未来へ希望を歌っていた昔の自分の歌なら。という。

ホワイトワイライト 

淡く暗くない

未来遠くはない

YouTubeには公式のMV無いんだけどめちゃめちゃ良いです。凄く良いMV。

 

7.BREEEEZE GIRL ☆☆☆

青春!夏!イェー!みたいな。

今 涼風ガール 夏いね

って歌詞が全てだと思うんだけど、「夏いね」ってワード、すげえパワーワードというかパンチラインというか。多分元ネタとしては「暑は夏いね」って定番のダジャレだと思うんだけどそれを完全に「この夏しかないワード」に昇華させてる感じ、流石だなあと思う。

Base Ball Bear - BREEEEZE GIRL - YouTube

 

8.LOVE MATHEMATICS ☆☆☆☆★

キラーチューン。ほぼ毎回確実にライブでやる。

キラーチューンなので当然曲がめちゃめちゃカッコイイ。

歌詞は、比喩表現をめちゃめちゃ重ねるタイプの曲で、アップテンポなリズムに合わせて何度となく「君」を様々な言葉に喩えながら最後に

この例えどうだ

と聞いてしまう感じ、「僕」のめちゃめちゃな自意識の強さを感じる。

Base Ball Bear - LOVE MATHEMATICS - YouTube

 

9.SIMAITAI ☆☆☆

君と〇〇してしまいたいよ!どこに行っても何をしても君とじゃないと……っていう直球成人ラブソング。エロい意味も多分含むのだろうけど歌詞内では特にその表現は無い。

「幸せな 結末がいいの」

その件は望むところだが

って歌詞が凄く好き。(「」内は関根が歌っており女性側の心情となる) 2番では

「林檎なら 一口ずつ」

その線で ストーリーライトしていきたい

になり、なんとなく「僕」は映画の中の登場人物か、逆に映画監督のような気持ちでこの恋愛をしているのではないか?という印象を受ける。

 

10.海になりたいpart.2 ☆☆☆☆

めちゃめちゃ人気曲。part.1はインディーズ時代の楽曲。ベボベはわりとこのpart1.2をすることが多いけど繋がってるものの方が少ない。

超アップテンポ。ライブだと盛り上がるしかねえ!って感じのよくできた曲だと思う。それでいて歌詞はめちゃめちゃ優しいというか、悲しさの中でどうにかあなたを包んであげたいよ、っていうすごく穏やかなテーマ。

T・H・E to the E・N・D 意識したあなたは

(泣かないで) 幸せな歌、唄えない

ならば 僕が 唄ってあげる

って歌詞がすごく好き。ありふれた哀しみや絶望、願いに対するアンサーががむしゃらなんだけど芯を捉えている感覚を覚える。

 

11.レモンスカッシュ感覚 ☆☆☆☆

「ホワイトワイライト」と対になる曲。

個人的な感覚では、「C」の頃に詩世界が近い感じがするというか、ぶつ切りの映像がいくつも繋がっていくような感覚になる曲。

でも写っている映像は海の見える都市では無い「今」だ。情景は映画的で、だからこそそれは願望であり真ではないのだろうと分かる。

アルバムのテーマである「ラブ&ポップ」を歌っており、このテーマはこのまま次の曲に引き継がれる。

レモンスカッシュ感覚(≒ラブ&ポップ)とキスやセックスを分けてしまっている感じが、結構この時期拗らせてる感じがするなー、と思う。

 

12.ラブ&ポップ ☆☆☆☆★

アルバムの主題を歌っている。Bメロからサビの流れがめちゃくちゃ良い。

永遠に続く感覚(レモンスカッシュ感覚)が続いて満ち足りたようでありながらも何故か助けを求めている自分、という曲。暗い。

一人だけの僕が 一人だけの僕のこと

見つめている 見つめあっている

一人だけなんだ ああ、わかっている

って歌詞めちゃめちゃかなしいな。1人だけの僕が、自分と見つめ合える筈が本当はなくて

それに自分も気づいている(けど自分としか見つめあえない)という。

そこから

一人だけの僕は 一人だけの僕のこと

見つめている 許しあっている

ひとつだけなんだ そう ひとつだけ

と慰めは終わらずに最後の最後に

素晴らしい日々 僕は僕と過ごしていく

そしていつか

曝してみたい 自分自身

でこの曲、このアルバムは一旦の終わりを迎える。

ハッピーエンドもバットエンドもなく、その中間の普通の虚無、普通の哀しさに対して「いつか曝してみたいなあ」というつぶやきでこのアルバムは内向きなまま終わってしまうが……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

13.明日は明日の雨が降る (secret track) ☆☆☆

3分の沈黙の後で雨の音と共に始まるシークレットトラック。

余談だけど、この雨音はoasisの(WHAT'S THE STORY)MORNING GLORY?の最後の曲であるchampagne supernovaのイントロの波の音のオマージュだと思っている。っていうかほぼ確実にそう。

Oasis - Champagne Supernova - YouTube

歌詞はめちゃめちゃ暗いしこんなに直球なことあるかってくらいに直球。

ラブ&ポップの最後に「そしていつか 曝してみたい自分自身」と歌ったのはこれの前フリであることが分かる。けれど

明日になれば泣けるのかな
あの壁の向こうで笑う

自分を思ってみる だけど

曝した所で泣ける訳でも笑えるわけでもない、真顔で黙々と生きていくだけ。

心の雨は涙ではないし太陽も笑顔ではない。

結局3分待っても雨が降るだけでハッピーエンドもバットエンドも来ず生活は続く。

この曲を聴くかどうかでアルバムの印象は大きく変わる。

 

総括 アルバム ☆☆☆

暗い。暗い中でもがきながらラブ&ポップを探す、かなり重いアルバムなんだけど、その表現手法としてのポップさ故に一見するとすごく明るいアルバムにも聴こえる。ボーナストラックを聴くかどうかによってもかなり変わるのでこのアルバムは特にiTunes等の配信での購入はオススメできない。

音楽性や歌詞は大好きだしアルバム通しての聴き心地も本当に考えられた作品だなとは思うけど、やっぱり答えがない暗さからアルバム1枚通して(もっと言うとバンドを始めた頃からずっと)抜け出せていないことをここまで歌ってしまうことにかなしさも覚えるし、それを純粋に良い、という評価も自分にはやっぱり出来ないなぁと思って☆3にしました。自分がつけた星の数以上にすごく良いアルバムだと思う。でも3。

でもここがあるからこそ「新呼吸」に繋がるのだ、と思うとすごく大きな助走のひとつなのだと感じる。