曖昧

芸術系の二流建築学生。主に好きなバンド、歌手の楽曲を自分用にアウトプットする場として。建築や本等の備忘録も。

特撮 「ヌイグルマー」 レビュー

基本的に特撮はリリース順にレビューしたいな、という事で2ndアルバムの「ヌイグルマー」(2000/10/25)を。前作「爆誕」から約半年でリリースという異様なスピード。

 

1.ヌイグルマー序章☆☆☆☆

好き。アルバムのコンセプト説明。筋少の「断罪!〜」の匂い。

オーケンはバンド以外の人の声を入れることに抵抗が全くなくてすごいなと思う。表現のためになんでも出来る人なんだろう。曲と言って良いかは分からないけど、シャッフルでこれが出てくるとこれ単体で嬉しくなる。


2.戦え!ヌイグルマー☆☆☆☆★(4.5)

身代わりマリーとほぼ同じテーマを歌ってる。この時期のオーケンは身代わりになる何かを求めていたのか、世間に何かそう言った存在を感じていたのだろうか。

n.u.i.g.u.r.u.マー!がちょっとだけ面白い。

中川翔子の「ヌイグルマーZ」がこれを元にしたストーリーなのだろうが、あまりにも興味がわかないので観ていない。

「私の瞳は洋服のボタン」って凄く良い歌詞だと思う。少女を見る時も泣いている時もその目は洋服のボタン。その他にもぬいぐるみ故に起きる状況描写とヌイグルマーである少年の境遇の哀しさをリンクさせるのが上手くて唸る。

 

3.ジェロニモ☆☆☆

ガスタンクのカバー。疾走感。元はもっと荒野感のある音だった。違いが面白い。

オーケンはかなり好きらしくソロでもカバーしている。

ジェロニモFGOでもおなじみネイティブアメリカンの戦士なのでそのキャラを見る度にこの曲を思い出す。


4.爆弾ピエロ☆☆☆☆

提供曲だとさっき知った。

「連想とは未熟な一体感」確かにそうかも、と思わされる。説得力がある。

爆弾ピエロが踊り出してからの展開が良い。ヌイグルマーとの繋がりを感じる。

好きなんだけど何を書いていいのか難しい。

こういうメロディの弱いパンクにメロディアスなピアノが入っていることが特撮の圧倒的な強みなんだろうなと思う。


5.バーバレラ☆☆☆☆☆

凄く好きな曲。人を殺した寂しい目の少年の方にドラマを感じるがそれを追う仕事嫌いの警官にスポットライトを当てている。日々の生活の中での「テレビ見たいのにな」と言うだけの事をこれだけ壮大に歌っているのが本当にオーケンのうまさだなと思う。人殺しの少年の描写とそれに全く関心を割かない警官の描写が交互に続くすごい曲。

深夜のテレビでやってる映画って良いよな。

「虹だ」ではなく「2時だ」なのか。映画に間に合わなかった警官は映画の内容を思いながら事故を処理するのだろう。

ライブで一番聞きたい曲のひとつ。


6.企画物AVの女☆☆☆☆★(4.5)

音楽性にあまり特撮らしさを感じない。それどこかファンク調を感じるが良曲。悲劇が喜劇、のオーケンお得意手法の真骨頂だなと思う。

彼女がその心の中で「あの人は見つけてくれたかもしれない」と小さな希望を持って死ねたなら幸せなのかもしれない。でもまず間違いなく販売されないと思う。元ネタは八甲田山か?2018年の音源でもVHSからの変化を歌っててちょっとだけ笑った。今ならVRとかネット配信だろうか。コーラスの「ふー企画物!」が良い。最後の「はっ」が可愛いですね。

おなおなおなおな同じように、オナニーとかけているのかな。


7.ケテルビー☆☆☆☆☆

ライブで一番聞きたい曲。

小さい事から超壮大になるオーケンお家芸。猫かと思ってよく見りゃパン(しかも一斤!)

固有名詞を使うことによって妙なリアリティを感じさせる手法を使っている。

外国人の声が上手くハマっているし、オーケンがよく使う素人女性コーラスもこの曲と相性が良くて、かなりこの当時での特撮の集大成的な曲な気がする。まだ一斤もあることがカタルシスになるってすごい曲だ。誰にも書けない。

最後のラララーをオーケンも歌うのでライブ版も非常に感動的になる。

猫とパンは分かるがタニシのモチーフはオーケンのどこから来たんだろうか……。

ラストに長めの語りがあるが、特撮でのオーケンの語りの中では一番好きで、孤独や憎しみを「暖かな午後の日差し」であるかもしれないと声を張り上げるオーケンは暗く生きる人へのまさしく希望なのだなと思う。


8,愛の木星☆☆☆☆

ケテルビーで希望を説いてからの「本当は恋愛したいんだろ」がグサッと突き刺さる時がある。

「みんなでハッピーな事をしたいよ」からゴリラライスなの、なんなんだ。そこに何があるんだ。ずっと俺じゃないっす!だと思ってた。台詞の部分のオーケン、レティクルの頃の暗さを感じる。


9.トンネルラブ☆☆☆☆☆

3年でブラジルまで掘るの、どう考えても人間離れしているがオムライザーのジャケ写みたいな機械を作ったのかもしれない(でも手作業で掘っていた方が良いな)。

Bメロの盛り上げ方が、全世界探してもこの曲しか無いんじゃないかと思わされる凄さで、Bメロが実質サビ。本サビも熱く煮え滾るような展開で凄まじい完成度になっている。オーケンの書く歌詞、歌い方、メロディ全てからこの2人は必ず報われるのだろうなと思わせるパワーを感じる。

ずっと穴を掘りながら、心の中で鳴らしていたであろうサンバを本当にその耳で聴いた時の彼の喜びはどれ程のものであっただろうか、と毎回少し感動してしまう。

アウトロが長いことが色々な想像力をかき立てる。彼女に出会ったシーンかもしれないし、1人放心してサンバの中を立ち尽くしている男かもしれない。でもきっとハッピーエンドだろう。

とにかく完璧な曲だと思う。


10.アザナエル☆☆☆☆

NARASAKI〜!!!

糾えるの意味を調べた。成程。ピアノの音がすごく綺麗で、NARASAKIの声とよく合うなあ。よく歌詞を読むと、「君」は亡くなってしまったのか。「君」が死んでも楽しいことも温かみを感じることもある。だから手紙を書くよ。って事だろうか。


11.ゼルダフィッツジェラルド☆☆☆☆☆

鬼火は何を表しているのだろう。人生を諦めて何も辛くないような顔をしている人への批難めいたものを感じる。すごく好き。なんと言って良いか分からないけど。

それを「ありふれたもの」と形容するの、オーケンの残酷さを感じるなあ。今ようやく歌詞の意味が少し理解出来て、そういった暗い人達の光を空へ灯せよ、という歌なのだな。

オーケンが探したいトーマスマンテルは犬人間かどうかを決める審査員の一人でもある。

トーマスマンテル大尉は気球をUFOと追いかけて結果上へ上へと昇り墜落死したらしい。

ゼルダフィッツジェラルドは火事で焼死していて、鬼火からの連想なのかもしれないな。

鬼火よ、風船おじさんも探しておくれよ。


12.組曲展覧会の絵」よりプロムナード〜マタンゴ☆☆☆☆

元のマタンゴより好き。

ララミーと同じように穢れ思想だとか村に住むゆえの世間の狭さみたいな暗さを感じる。

やっぱりマタンゴはエディがいないと表現出来ない曲だな。思えば特撮はどこか「sister strawberry」の時の筋少の路線を強化したような感じがする。

 


総括☆☆☆☆☆

「身代わりマリー」の音楽的な路線をより強化したようなアルバム。各曲の出来が高過ぎる。特に後半は何かオーケンの鬼気迫るものを感じる。

意外と「身代わり」テーマはヌイグルマーだけでアルバムコンセプトとしての身代わりは「爆誕」でやり切ったんだろうな。

聴いてる人に訴えかけるような曲が多いような気がして、聴きやすいアルバムなんだけど聴いた後になんだかちょっと嫌なものが残る、そんなアルバムだと思う。

総合的な曲の完成度で考えるなら特撮のある種のピークと言えるかもしれない。しかしそれをパナギアの恩恵で超える(主観)のでオーケンはまさしく鬼才なのだなと思う。