「大阪芸術大学 アートサイエンス学科棟」 妹島和世建築設計事務所
妹島和世建築設計事務所設計の大阪芸術大学アートサイエンス学科棟(2018年竣工)の備忘録、感想等。
大阪芸術大学は大阪のド田舎にあり、入口もわりと急な坂をぐるっとまわりながら上がる。
大阪芸大内の建物は殆ど高橋靗一の設計であり、後期コルビュジエ的なコンクリートのものが多い。坂を上がりきった所には高橋靗一設計の「芸術情報センター」と「11号館」が迎えてくれる。
新学科棟から11号館(左)と芸術情報センター(右)を望む
高橋さん設計の建物が(一部手直しされているとはいえ)殆どの空間を構成している中で新しい校舎を設計するというのはかなり難しいだろうと思っていたし、新建築内での写真を見た段階では「格好良いが単なる客寄せパンダ的な扱いに収まってしまうのではないか」と考えていたのだが実際に訪れるとそのようなことは無く非常に感動した。
新学科棟は大阪芸大の坂からそのまま繋がったような丘の起伏を模したスラブで構成されており、これが誌面で見るよりも圧倒的に「その地の流れ」を読み、建築内に含んでいる。
坂から流れるように歩くとそのまま2階に繋がる屋根スラブに乗るようになっているのだが、分厚い屋根スラブに乗るという体験は非常に力強く、建築(それもRC特有の)パワーがあるなと感動した。
見た目の奇抜さだが、勿論高橋さん設計の校舎と明確に違いはあるが特別悪目立ちしている感じはなく今後長く使われていく中で色も黒ずんで少しずつ大学に馴染み落ち着いていくのではないかと思う。
内観は外から見たまんま、というか外から見る以上に開放的で本当にスラブが宙に浮いているような感覚すら覚えた。
非常に細い柱とブレースのみで構造を担っておりどうやって保っているんだろうとしばらく考えてしまった。強化ガラスも構造を担っているのか?と考察したりもしたが後で新建築を読み返した所どうやらそうではないらしいのでやはり柱とブレースのみで支えているのか。
ここら辺の話は構造がサッパリなのでぼんやり考えるだけで終わってしまうので知識がないことは我ながら罪だなと思う。
ホールには妹島和世デザインのスツールが置かれている
銀の壁は全て個室に繋がる扉になっており、壁を展開させるとそれぞれの個室に行ける。
フィルムカメラ風のやつで撮影したので変な光が入っている
壁面の外側に並ぶ個室と地下に複数部屋があり、
パブリックな空間(中央吹き抜けスペース)とある程度プライベートな空間が使い分け出来るようになっている。
地下階段から地上階を見る
地下の廊下。両脇にいくつか大小様々な部屋がある
地上階の入口から向かって左が個室、向かって右は写真のようにガラスで廊下を隔たっており、こちら側には機械室等がある模様
全体的に素晴らしい点が多く非常に強く刺激を受けたが、地上階のパブリックスペースは反響音が凄まじく、スツールなどを引いて座ろうとするや耳をつんざくような音がするし、会話をしてもトンネルの中にいるかのような状況で、長時間ここでミーティングをしたり、リラックスをする、というような場所としてはとてもじゃないが使えないと思う。
自分の大学(大阪芸大では無い)の教授に質問したところ、やはり通常の使い方はほぼ出来ず、人が沢山入るとそれぞれが吸音材の役割を果たしてかなりマシになるらしい。
人が吸音材にならないとダメな空間ってなんだ。
思うに、「ガラスで周囲を囲っていること」と
「コンクリートの仕上げがツルツルなこと」が要因として大きいのだろう。
大学の施設としては致命的だと思うが、このコンクリート仕上げは非常に重要な要素のひとつだとは思うので公共施設や大学施設の設計は難しいんだろうと思わさせられた。
新学科棟の入口付近。
最後に高橋靗一設計の校舎達。